税効果会計でのれんを圧縮するウラ技
日本会社がM&Aをするうえで、ひとつのネックになるのが「のれん」です。
日本の会計基準では、のれんは20年以内のその効果が及ぶ期間(多くは5年ぐらい)で償却することになりますので、買収した事業がそれを上回る利益を上げてくれないと、少なくとも償却期間では投資効果はマイナスと評価されてしまいます。
今回は、そんな厄介なのれんの金額を少なくする方法について、税効果会計を用いる方法を3つ紹介します。私が買い手担当者としてキャリアを積んでいたころは、これらの方法を組み合わせて経常利益を確保したり、入札額を吊り上げていました。M&A担当者様にはぜひ使っていただきたい方法です。
①役員退職金を用いる方法
売り手オーナーが役員である場合に、買収対価の一部を退職金とすることで、売り手と買い手の双方に節税効果を発生させるスキームは非常に有名です。
この役員退職金は、多くの場合株式売買後に確定するものであるため、税務上、未払金や引当金を立てることはできません。ところが会計上は、株式取得段階で未払金か引当金を立てることが一般的です。
このギャップを利用し、会計上で計上した未払金・引当金に、税効果会計を適用します。すると、計上された未払金等に対して約30%分の繰延税金資産が計上され、純資産の減少は残りの約70%に留まります。一方で、株式対価は退職金の100%が減少しますので、約30%分がのれんの圧縮効果となります。
②引当金を用いる方法
上記の役員退職金によるのれん圧縮効果は、多くの引当金において使用できます。デュー・ディリジェンスで発見された引当金は、取引価格の交渉材料として使用されますが、ほとんどの場合は引当金全額が交渉対象であり、繰延税金資産を議論する売り手は多くありません。(税効果を理解できている売り手FAが少ないのは非常に問題です)
純資産の毀損が約70%なのに対し、買収価格の減少が100%であれば、その分のれんを圧縮することができます。
③税務上ののれんを用いる方法
事業譲渡や会社分割(スピンアウト取引)では、税務上において、資産調整勘定(税務上ののれん)という資産勘定が計上されます。資産調整勘定は会計上ののれんとほぼ同様の概念ですが、会計上ののれんとは別個で管理されるものです。
好都合なのは、この資産調整勘定は、将来において償却費を損金に計上できることです。すなわち、将来に対する節税効果が生まれます。そして、この節税効果に税効果会計を使うと、のれんを大幅に減少させることが可能なのです。
この理屈はかなり難しいので、専門の公認会計士にご相談いただきたいのですが、この方法によるのれん圧縮効果は絶大であり、40%ほど入札額をアップさせても、のれんの金額は同じという現象が起こります。あらゆる場面で使える方法ではありませんが、場合によっては、知っているかいないかが落札者を決めると言っても過言ではありません。
上記の方法を使う場合の留意点
上記いずれの方法も、常にのれんを圧縮させることができる、というわけではありません。税効果会計、連結会計、組織再編税制という非常に高度な会計概念を複合させたスキームですので、慎重な判断が必要になります。
しかし、だからこそ、競争相手を出し抜き、しっかりと利益を確保する切り札となることもあります。我々のようにこれらの方法をマスターしている専門家は公認会計士・税理士の中でも少数ですが、ぜひご相談いただき、失敗のリスクを少しでも軽減していただければと思います。